こんにちは、エルカです! 外がまだ肌寒い中、ご自宅で読書をされる方も多いのではないでしょうか? そこで今回は『キオスク』という本の紹介をしたいと思います。
この作品はオーストリアの作家、ローベルト・ゼーターラーによる青春小説です。私がこのお話を知ったのは、2019年12月から2020年1月にかけて上演された「リーディングシアター『キオスク』」という舞台を観に行ったことがきっかけでした。リーディングシアターは、普通の演劇やミュージカルとは違い、舞台転換がなく、キャストがそれぞれの役を演じながら物語を読み聞かせる公演のことです。私は初めてリーディングシアターを観劇したのですが、想像力が掻き立てられるような感覚があり、キャストの台詞一つ一つを聞き逃さないよう、しっかりと聞き込んでしまいました。原作には触れずに観劇したので、春休みの今、本を読んでいる最中です。
キオスクと聞いて、駅構内にある小型売店kiosk(キヨスク)が思い浮かんだ方もいるかもしれません。私も、最初はキヨスクと何か関係があるのかなと予想していました。原タイトルは『Der Trafikant』で、「トラフィク」という言葉が使われているのですが、これは「販売」という意味のイタリア語「traffico」に由来します。ドイツではトラフィクに相当する小売店のことをキオスクと呼んでいます。日本のキヨスクと語源は同じで、庭園の仮小屋を指す「キョスク」というトルコ語に由来しています。これは原作のあとがきにも書いてあったのですが、トラフィクよりもイメージしやすいように、日本語訳では『キオスク』とタイトルを付けたそうです。もちろん、予想通り、キオスクは物語の中で主要な舞台となっています。
ここから、舞台の感想と共に、『キオスク』の世界をご紹介していきます。以下の文章には、ネタバレが含まれますのでお気を付けください。
オーストリア出身の17歳の少年フランツは、湖のほとりの田舎で母と二人暮らしをしていました。1937年、フランツは母の元を離れ、ウィーンでキオスクを営む母の旧友、トュルスニエクの下で、見習い店員として働くことになります。都会の生活への不安と期待を抱えながら、キオスクの店員としての仕事も覚えつつ、フランツは様々な客に出会います。物語の中では彼がウィーンで過ごした日々のことが描写されていますが、当時のウィーンではナチズムが台頭していました。ユダヤ人に対する差別があったり、キオスクで販売できる商品に制限が決められていたりするなど、決して自由に生きられるような時代ではなかったと思います。その生活の中でフランツは、初めてアネシュカという女性に恋をしたり、キオスクの常連客であるフロイト教授から色々なお話を聞いたり、悩みを相談したりします。政治的・社会的に混乱していたウィーンですが、まっすぐなフランツの、新たな地で一生懸命に生きようとする姿が、周りを少し明るく照らしているように私は見えました。
ところが、フランツの初めての恋は実らなかったり、キオスクの店主であるトュルスニエクが警察に連れていかれたり、ユダヤ人だったフロイト教授が亡命することになったりと、フランツの周りから光が消えていき、一人きりになる瞬間が来ます。母とはいつも絵葉書でやりとりをしているフランツですが、この時は初めて手紙を書きます。その時彼は手紙の中で、トュルスニエクは病気だと嘘をつきます。母を心配させないようにと、全てを正直に伝えないフランツを見て、親元を離れて大人になったのだな、守りたい人がいるからこそ嘘をついたんだなと思うと、私は涙が止まりませんでした。一人で抱えるには辛すぎることばかりなのに、最愛の母のために嘘をついたフランツを、抱きしめたくなるような気持ちになりました。そんな辛いことが続く中でも、フランツはキオスクの店を守り続けようとします。
これ以上は物語の核心に触れてしまいますので、皆さん自身の目で、キオスクとフランツの運命がどうなっていくかを確かめてみてください。
今回の公演では舞台転換がないため、オーストリアの街並みや、キオスクの店内などをキャストの言葉から想像しつつ観劇するのは、新鮮でとても楽しかったです。いつか実際にウィーンに足を運んでみたいとも思いました。
公演は終わってしまいましたが、2018年には映画化もされているので、気になる方は原作と共に映画もご覧になってみてはいかがでしょうか。ノスタルジックな街角の空気感をぜひ味わってみてください!
参考文献:
●「リーディングシアター『キオスク』」CUBE Group公式サイト http://cubeinc.co.jp/stage/info/kiosuku.html
● ローベルト・ゼーターラー(著)、酒寄進一(訳)(2017年)『キオスク(はじめて出会う世界のおはなし オーストリア編)』東宣出版