鳴尾駅前「みんなの ちっちゃなアートボックス」で初公開され、約4か月の展示を終えた後、先日の武庫川女子大学文化祭で展示された本学科・肥後准教授のアート作品「『おぼろげな記憶』 Blurred memories」をアーカイブします。
「『おぼろげな記憶』 Blurred memories」は映像の作品で、映像を投影する装置そのものが一つの作品になっています。LEDマトリックスと言われる電子パネルの画面にはどこか見たことのあるような風景がぼんやりと映し出され、様々な風景に切り替わっていきます。ぼんやりとしているのは、64×64ドットのLEDマトリックス画面に64×64pixelの画像が映し出されているからで、高画素化していく現代のデジタルの世界とは逆行した、低画素による表現の可能性を探る作品となっています。
またこの作品の画面下部にはカメラが配置されていて、通る人がしばらく作品を覗き込むと自動的に再生される風景に重なって、覗き込んだ人の人影が突然画面に現れます。
まるで人が顔を覗き込まれたとき、風景と共に覗き込んだ人を瞳に映すように。
この作品は事前に撮影・編集した映像を再生している「ヴィデオアート」と、見ている人や周りの環境も巻き込む「インスタレーション」を組み合わせたヴィデオ・インスタレーションなのです。
「みんなの ちっちゃなアートボックス」は鳴尾駅前公園にあり、雨風は凌げるものの野外展示に近い環境のため、昼間の良く晴れた日は外の光が強く、映像が少し見えづらいのですが、作品の入った時計台とともに公園に溶け込んで作品と公園が一体化し、また日が落ちて鳴尾駅や駅周辺の建物の電飾や照明が光り始めると、アートボックスの内部もライトアップされ、映像の光が共鳴する…というように天候によって作品の印象も変わってくるのも面白いところでした。
この作品はひとまず展示の旅を終えました。アート作品は展示期間を終えてしまうと、次に同じ作品と出会う機会が未定になってしまうことが多いです。そのため、お気に入りのアート作品がある場合は、常に動向を伺っていないといけません。そこで、その間に新たな作品を探すのも良いかもしれません。今回の作品の場合では「ヴィデオ・インスタレーション」で探すと、同じジャンルの気に入った作品に出会えるかもしれません。また、肥後准教授の教えを受けた肥後ゼミでもゼミ生たちが毎年、様々な作品を制作・発表しています。ぜひ、同ジャンルや情報メディア学科から生まれる新たなアートに注目し、芸術の秋をご堪能ください。
≪作品の詳細≫
・作品名称:「『おぼろげな記憶』 Blurred memories」
・作者:肥後有紀子(武庫川女子大学准教授)
・制作年:2022年
・使用機器:LEDマトリックス(64×64ドット)、シングルボードコンピュータ(Raspberry Pi 4)、カメラ(Raspberry Pi4用)、アクリル板など
・作品概要:
街は新陳代謝を繰り返し、その表情を変えていく。記憶の中に生きる「かつて」の街の風景は、時間経過とともに次第に溶け、他の街や「現在」の街の記憶と融合する。それは曖昧でおぼろげなもの。大切な景色を忘れてしまう自分の薄情さに愕然とする。
予め用意された街を中心に映した64×64pixelの画像が徐々にぼやけ、作品内に設置されたカメラが捉える「現在」の街に立つ鑑賞者にフェードする。今日見た街、かつて見たどこかの街と重ね合わせるかもしれない。
高画素の動画像撮影や再生が容易となった時代において、低画素による表現の可能性を探る作品。
・展示履歴:
2022年5月~9月 「みんなの ちっちゃなアートボックス」(兵庫・西宮)*1
2022年10月8日~9日 第67回武庫川女子大学文化祭 日下記念マルチメディア館5階MM-501「HIGO☆LABO」(兵庫・西宮)*2
*1 武庫川女子大学の最寄り駅である鳴尾・武庫川女子大前駅の南側に位置する駅前公園内に配置された小型の展示スペース。時計台の役割も兼ねており、ガラス張りの空洞部に作品が展示できるようになっている。空洞部の展示スペースは幅58.2㎝、奥行73.7㎝、高さ89.7㎝ととても小さいスペースであり、駅前の世界一小さな美術館と言われている。
*2 3年ぶりに対面開催された本学の文化祭。「HIGO☆LABO」は肥後准教授のゼミの展示室。