初めまして。社会情報学科 1 年のさかなと申します。
皆さんは最近何か映画を観ましたか? 最近ではホラー作家兼 YouTuber である雨穴氏の人気動画が原作の『変な家』や、不動の人気アニメの劇場版『名探偵コナン 100 万ドルの五稜星(みちしるべ)』などが流行っていたように見受けられます。話題性のある映画は見に行きたくなりますよね。
そこで私がメルマガを通して紹介したい映画があります。
片山慎三監督作品の『さがす』という映画です。あらすじを自分なりにまとめたので、これを読んで映画が気になった人はこれ以上何も情報を入れずに視聴してみてください!
あらすじ……大阪の西成に暮らす日雇い労働者の父親・原田智(佐藤二郎)と中学生の娘・楓(伊東蒼)。2 人きりで苦労も多いなか平穏に暮らしていたはずだった。ある日の夜、智が指名手配中の連続殺人犯を見かけたと口にした。「朝な、電車ん中で見かけてん」「警察突き出したら 300 万やで」楓はそれらの言葉を全く信じず気にも留めず、寝床についてしまった。その翌朝、父親が姿を消した。その日から、楓は行方が分からなくなった父親を探しはじめる。幸いなことに、とある日雇い現場に父親の名前があるということが分かり、居場所をつきとめることができた。「お父ちゃん! 」現場に着くや否や楓はそう叫んだが、その声に振り向いたのは父親とは全くの別人の若い男(清水尋也)だった。振り出しに戻ってしまい落胆していた楓だが、偶然目に入った連続殺人犯の指名手配書に、あの日雇い現場の若い男に似た顔写真が載せられていて……
この映画は監督、脚本、出演者の演技どれをとっても素晴らしい映画だと感じました。この映画の片山慎三監督は、カンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した映画『パラサイト 半地下の家族』の監督であるポン・ジュノ氏のもとで助監督を務めていた経験のあるかなりの実力派で、社会の規律から逸脱してしまった人間の描写がとても面白く、リアリティがありながらもエンタメ性に欠けていない映画作りをしているのが魅力です。
脚本は、原作のない完全オリジナルです。時系列を行き交うストーリー形成で、観客にミスリードさせるような想像のつかない展開がたくさんあり、とても引き込まれます。
主演である演者さんの演技力も凄まじいです。どちらかというとコメディ色の強い演技が印象的な佐藤二郎さんですが、この映画では、掴みどころのないどこか不穏な雰囲気を漂わせた父親・原田智役を演じています。コメディ作品に出演されている時のひょうひょうとした姿は一切無く、俳優の凄みを感じられるような怪演に圧倒させられます。そして娘役の伊東蒼さん、この方の演技も圧巻です。しっかり者で気が強く少し短気な娘・楓の、父親を見つけ出すために奮闘する姿や、表情で魅せる細かな心情描写などの、とても撮影当時16歳だとは思えない表現力で圧倒的な存在感を放たれていて、すごく魅了されます。さらに、犯人役の清水尋也さんの演技も素晴らしいです。この映画のキーパーソン、連続殺人犯の山内照巳という役は実際に現実世界で起こった事件の犯人をモデルにしている、と片山監督が語っています。(YouTube チャンネル『快活シネマ倶楽部』出演時)凶悪な殺人犯というなんとも難しいであろう役ですが、雰囲気から表情、佇まいから得体のしれない妖しさが纏っていて、全身で役を演じられていることが分かります。非道な行為を繰り返すが、どこか心から憎むことはできない山内照巳というキャラクターを完全に体現していました。この役は清水尋也さん以外考えられないと思うほど完璧なキャスティングだと感じました。
※下記から本編の内容を含みます
この物語の主軸となる出来事は「自殺サイト殺人」です。日雇い現場の若い男と同一人物である連続殺人犯の山内照巳は、SNS を通じて自殺志願者と落合い、自らの手で殺めるという行為を繰り返していました。劇中で山内はそのような行為を"人助け"だと言い張ります。
原田智にはかつて生きていた妻がいました。妻の公子さんは生前、筋萎縮性側索硬化症(ALS)という、手足や顔などの体を動かすために必要な筋肉が徐々に痩せ細り力が入らなくなる、日常生活にかなり支障をきたすような病気を患っていました。智はそんな妻を懸命に支えますが、本人は「死んだほうがマシやわ」などと呟いてしまうくらいに心身ともに疲労していました。ある日、智がいつものように家に着くと、上から吊るした縄ビニール紐で首を吊り、自殺を試みる妻の姿を目撃してしまいます。その光景を見てしまった智は、自分の中の何かが壊れ、その夜に妻のことを思い、寝ている妻の首に手をかけ窒息させて殺してやろうと試みますが、未遂に終わってしまいます。山内はその事情に漬け込み、苦しみから解放させてやるという建前で公子さんを殺します。
事態がどんどん悪い状況に向かうどうしようもない展開に観ているだけで心が苦しくなりましたが、それと同時に、もし自分が智や公子さんの立場に立ったら……? などと考えさせられました。
現在、日本の法律では安楽死は認められていません。
ここ数年の日本の自殺者数は 2 万人を超えており、先進国の中でもトップレベルの多さです。X(旧 Twitter)では「#国は安楽死を認めてください」というようなハッシュタグがたびたびトレンドに上がるなど、自ら死を望む人たちが多く見受けられます。劇中でも、公子さんのSNS のアカウントが映るシーンがありますが、自ら安楽死を求めるような内容の投稿がいくつもなされていました。希死念慮が特にない人達の間でも、実際にスイスで安楽死を行った母親とその家族に取材したフジテレビのドキュメンタリー番組が大きく注目されるなど、多くの人が安楽死に興味を示しているようです。
死にたいと願う人を死んでほしくないという意思で生かすのはエゴなのではないか? その人の意思を尊重するのが一番なのではないか? そのような考えが頭の中に現れてしまいます。
ですが、もし実際に国が安楽死を認めたら、いろいろな問題点も出てくると思います。例えば、重い病気を患っている張本人が自分はまだ心から生きたい、と思っていても、家族や周りに金銭面や介護などで負担を掛けたくないという思いで安楽死という道を選んでしまうような、本人の本当の意思で決定づけられていない安楽死も増えてしまう可能性があるのではないでしょうか? その様なデメリットを考えたら、一概に良い制度とも言えないので、とても難しい問題だな、と感じます。
この映画を観て、たくさん「死」について考えさせられました。「大切な人には何としてでも生きていてほしい」、「本人が死にたいなら死ねばいい」、「死にたいはずなのに生きたい」、映画の中でたくさんの「死」に向けられた感情がありました。人間にはいつか必ず「死」が訪れます。「死」に向き合うことは人間の一生の課題だと思います。ぜひこの映画をご覧になって一度考える機会を作ってみてください。
参考URL:https://sagasu-movie.asmik-ace.co.jp/ 映画『さがす』公式サイト
https://www.youtube.com/watch?v=E-_bdZMB-OM YouTube チャンネル「快活シネマ倶楽部」