こんにちは! エルカです。今回は、少し前の話になりますが、夏休みに母と観に行った映画の話をしようと思います。その作品は、2019年7月20日に公開された『存在のない子供たち』という“中東のスラム”が舞台の映画です。監督が3年間現地で取材を重ね、目の当たりにした風景をもとに制作したフィクション作品で、戸籍がない12歳の少年ゼインが、両親を「僕を生んだ罪」として訴えるという物語です。
この作品はシネマコンプレックスのような大きな映画館で公開されたのではなく、限られた数の小さな映画館で上映されていました。私がこの映画を知ったきっかけは、YouTubeの映画チャンネルの広告でした。12歳の少年が、自分を生んだ罪で両親を訴えた理由が気になり、どうしても観たくなったのです。なぜこのようなテーマが気になったのかというと、私は高校の総合の授業で、世界の貧困問題や、15歳以下で結婚・出産をさせられる女の子がたくさんいるということを学んでいたからです。発展途上国などでは、女の子への教育が整っておらず、自分の人生を自分の好きなように決められない現状が続いています。この映画は私が高校で学んだことと繋がるのではないかと思い、必ず観に行こうと決めていました。
なお、この記事は映画のネタバレを多く含みます。まだ映画を観たことが無い方は、注意してください。
映画は裁判所のシーンから始まり、ゼインが裁判を起こすこととなった経緯が描かれます。
主人公ゼインの家は大家族なのですが、彼は家計を支えるために学校へは行かず、毎日家の仕事の手伝いをしています。ある日、最愛の妹が11歳という若さで歳の離れた男性と結婚をさせられました。ゼインはそのことで両親を恨み、家を出ていきますが、戸籍がないため職に就くことができません。そんな時に赤ちゃんを連れた、ラヒルというエチオピア移民の女性に出会い、子守として一緒に暮らし始めます。ところが、ある日突然ラヒルは2人を残したまま帰ってこなくなりました。実は、彼女は不法滞在をしていることを警察に知られ、捕まってしまったのでした。その後、ゼインはシリア難民の女の子に誘われ、スウェーデンに亡命することを決意します。亡命を手伝ってくれるという偽造滞在許可証屋は、ラヒルの赤ちゃんを譲ることを条件に出します。ゼインは苦しみながらも承諾し、亡命に必要な身分証を実家に取りに帰ります。しかし、両親からは出生証明書は存在しないことに加え、ゼインの妹が11歳という若さで無理な妊娠をさせられ、それが原因で亡くなったことを告げられます。ショックを受け、怒りを覚えたゼインは包丁を持って家を飛び出し、妹の夫を刺してしまい、遂には投獄されてしまいます。
そして留置場のゼインの元に、母親が面会に訪れます。母親は妊娠中であること、生まれてくる子供に亡くなった妹と同じ名前を付けることを聞かされたゼインは、何度も何度も同じことを繰り返す両親を「自分を生んだ罪」で訴えることを決意します。もう自分と同じような人生を歩む子供は生まれて欲しくない、というゼインの願いが社会を巻き込んで裁判を起こしたのです。この裁判がきっかけで、偽造滞在許可証屋が隠れて人身売買をしていることも明らかになり、売り飛ばされる予定だった赤ちゃんも、無事にラヒルと再会することができました。
そして、ゼインも身分証を作ってもらえることになりました。映画を通してずっと笑顔の無かった彼ですが、写真を撮る際に初めて笑顔になれたのです。私は、この表情を見ることができてほっとしました。彼に、笑顔になれる瞬間が、笑顔になれる幸せがあって、本当に良かったと思いました。
私は映画が終わっても涙が止まらず、気分が落ち込んだまま帰り道を辿りました。やはり最愛の妹が亡くなったシーンが、ゼインの気持ちを考えると本当に辛かったです。この映画は物語を見ているというよりも、ドキュメンタリーを見ているようでした。映画のストーリーはあり得ない話ではなく、実際に起きていることもあると思います。この映画にリアリティがあったのは、主人公を演じたゼインくん(ゼインは役者の本名)をはじめとしたほとんどの出演者が、役柄と同じような環境で育った素人で構成されているからだと思いました。このことは映画を見た後で知ったのですが、だからこそ、私はこの映画に強く胸を打たれたのだと思います。特に演技未経験だとは思えない、ゼインくんの表情がリアルで素晴らしく、逞しく生きる姿に感動しました。
私は高校での学びが無ければ、世界のこのような実態を知ることはなかったかもしれませんし、この映画も観ていなかったかもしれません。この映画を観たからといって、世界から貧困が消える訳でも、世界中の子供たちが救われる訳でもありません。私たちが恵まれていることを改めて実感したと同時に、どの国の子供たちも同じように夢を持ち、勉強し、親の愛情を受け、幸せに暮らせるようにしなければいけないと思いました。
また最近、貧困地域の女の子についてのACジャパンのCMをよく見るので、やはり問題視されていることなのだと感じます。そういった中で私たちにできることは、寄付だそうです。同情するだけでは何も変わりません。少しの金額でも良いそうなので、私も寄付しようと思っています。もう少し貧困について学んでみたいという方は、私が高校生のときに読んだ『Because I am a Girl 私は女の子だから』(英治出版)をぜひ読んでみてください。貧困地域の女の子たちの実態を知ってもらえると思います。映画『存在のない子供たち』も、レンタルなどで一度皆さんにも観ていただきたいです。この映画を観た日から、世界が少し違って見えるかもしれません。私は家族や友達と、毎日不自由なく幸せに生活できていることに改めて感謝することができました。
参考文献:
●映画『存在のない子供たち』公式サイト http://sonzai-movie.jp/about.php
●『Because I am a Girl』 プラン・インターナショナル https://www.plan-international.jp/girl/
● ジョアン・ハリス ほか6名(2012年)『Because I am a Girl――わたしは女の子だから』英治出版